第二回日本ホラー小説大賞を受賞し映画化・ゲーム化もされたジャパニーズホラーの傑作「パラサイト・イヴ」の作者としてお馴染みの瀬名秀明氏による、「仮想世界」をモチーフとしたSF作品。
あらすじは…
本書の主人公・久保杏子は証券会社にクオンツ(高度な数学的手法を用いて市場を分析し投資戦略を考案する専門家)として勤務しているが、ある日同僚の相談をきっかけに仮想世界「BREATH(ブレス)」に自分のアカウントを作成する。そしてアバターの杏子は、BREATHのインワールドで野下洋平という男性と運命的な出会いをするのだが、彼は杏子が高校1年生の頃に恋をした相手「トシオ先輩」だった…
本書はTOKYO FMのデジタルラジオで放送するラジオドラマ用に書き下ろされたのだという。
基本的には近未来SFではあるが、21世紀初期の「ほんのちょっと先」の未来を描いているので全く夢物語なフィクションではなく、「いずれは実現するんだろうなあ」と現実味を持って未来を予想できるような作風だ。
この「エヴリブレス」には「BREATH」というセカンドライフが進化したかのような3D仮想世界が登場する。BREATHは、自分のアカウントを登録すると、そのユーザーのPCのすべてのファイルやデータを分析し、ユーザーがどのような人物かを割り出して外見・内面共に本人にそっくりなアバターを作り上げる。さらに人工知能も搭載されており、ユーザーがログアウトしている間も勝手にインワールドの中を歩き回って成長する。つまり「BREATH」においてアバターは「分身」ではなく「独立した個人」。ユーザーはアクセスするするたびに自身のアバターと「共鳴」し、自身の属性をアバターに反映させていく。まるで人と人とが出会い影響し合うように。
つまり、この作品の根底に流れるテーマは「共鳴」。ラジオ、音楽、仮想世界、それらは全て他と共鳴することにより成り立つもの。
BREATHの中では、現実に実らなかった恋でもアバターで成就させることができる。
BREATHの中で杏子はラジオのアナウンサーを始めるのだが、そのインワールドの仕事でかつての恋人「トシオ先輩」と再会、それから杏子の娘と孫までを巻き込む親子3代にわたる壮大な物語が進んでいく。その間BREATHも進化し続け、やがて登場人物全員が当たり前にBREATHを利用し、現実と仮想が交錯してどちらがどちらなのか判別できなくなるほどに。
印象に残ったのは、「(仮想世界を)これから200年、300年かけて楽しめばいい」という記述。
結局、仮想世界はPCの中に広がるとはいえやはり「世界」なのだ。世界は人と人とが出会い、共鳴することによって進化(深化)してゆく。だから今年中に何がどうなる、この時期にはこれくらいになる云々と短いスパンで見て成果を急ぐべきではなく、もっとゆったりと大局を見て長いスパンで考える必要があるものではないだろうか?









