応用編

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クラインの壷 - 岡嶋 二人(著) - 新潮文庫

クラインの壷 (新潮文庫)


本書のタイトルにある「クラインの壷」とは、境界と表裏の区別を持たない2次元曲面のこと。表にいたつもりがいつの間にか裏になりその境界線も分からないという、3次元空間では再現不可能な立体。(形など詳細はこちらを参照)
本書はまさにこの「クラインの壷」のようなバーチャルリアリティシステムを軸に物語が展開していくミステリー作品。


あらすじは…
ゲームブックの原作の公募に応募したことがきっかけで、バーチャルリアリティシステム「クライン2」の実証実験に携わることになった青年・上杉は、謎に包まれたゲーム開発会社の研究所で日々テストプレイヤーとなって仮想空間に没入する。しかしある日、アルバイトとして同じくテストプレイヤーをしていた専門学校生・高石が何の前触れもなく失踪してしまう。不審に思った上杉は高石の学友だという少女・真壁と共に独自に「クライン2」の周辺を調査し始める…。


本書は1996年にNHKでドラマ化されているので、もしかしたら覚えている人もいるかもしれない。
当時はまだ未知のものだったバーチャルリアリティと仮想空間がモチーフになっており、表と裏の境界がない「クラインの壷」同様に、物語が進むにつれリアル(表)とバーチャル(裏)があいまいになりどちらがどちらだか分からなくなっていく様子が描かれる。
「クライン2」は意識ごと仮想空間に”没入”するタイプの装置で、一度入ってしまえばそこには視覚、聴覚、味覚・嗅覚、その他全ての感覚を完全にリアルに再現した世界が広がる。実験ではゲームシナリオを再現した”ゲーム”の世界に入るのだが、後に謎の失踪をすることになるアルバイトの高石は、ゲームを進めることよりもその過程で「人を殺す」ことに面白さを見出していく。そして高石の代わりに来た別のアルバイトは、「これでアダルトゲームを作れば儲かる!」と提案する。この2点は特に話の筋には大きく関わらないのだが、「仮想世界」を知った直後の人間の姿をよく表しておりなかなか興味深い。人間が新しい技術に触れたときにまず思いつくのは「殺し」と「エロ」だというどうしようもなさ。


読み進めるうち、「今読んでいるのは現実世界の場面か?それともバーチャルの場面か?」と徐々にこちらまで区別がつなかくなり、何度も前のページを読み返してしまうところ多数。
伏線の張り方とその回収も見事で、謎解きの場面もスピード感があって一気に読めてしまうので確かにミステリーとして面白い作品なのだが、背筋の寒くなるような”没入”の恐ろしさの描写も素晴らしく読みようでは「スリラー作品」ともとれる。
ラストの場面ははたして現実だったのか?それとも仮想空間に入ったままだったのか?最後まで後を引く印象的な作品だ。


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