ウィリアム・ギブスンと帝政ロシアと江戸の庶民文化と秋葉原発オタク文化とマトリックスを全部足して「アメリカ横断ウルトラクイズ」で割ったような歴史改変SF作品。一体いつの時代に迷い込んでしまったのだろうかと不思議な感覚が味わえる小説だ。
冒頭、ます老若2人の修道士がロシア新皇帝の戴冠式をインターネットのライブストリーミングで観ているところから話が始まる。帝政ロシアとインターネット??さらにこの2人の会話から、かつてロシアには「ソビエト連邦」があったこと、領海問題による戦争の結果日本がロシアの属国となっていること、日本には徳川幕府が存在することなどが明らかになる。
一方日本の江戸では、町の中をロシアンマフィアたちが闊歩し、将軍職は残っているものの幕閣にはロシア高官が介入、因みに吉原の灯はネオン管とモニター、秋葉原はやはりオタクの聖地らしい…。
この日本では、誰もがピョートル大帝によって沼地に強制的に造られた都市「ペテルブルク」に憧れている。一番人気のインターネット番組は、タレントの大黒屋光太夫が司会を務める「シベリア横断ウルトラクイズ」。優勝商品はペテルブルクの永住権だ。
正直なところ、日本史と世界史、オタク文化、ITの予備知識がないと舞台設定を理解するのは少々難しいかもしれない。しかしそれらを予習してから読むと、随所に小ネタが仕込まれている作品なので終始ニヤニヤしながら読むことができるだろう。
物語は日本の江戸とロシアのペテルブルクで交互に展開していくが、その間を埋めるものとして「仮想空間ペテルブルク」が登場する。
江戸の町娘でハッカーのおきみは、音楽家でペテルブルクに行ったきり消息不明になってしまった恋人・龍太郎の身を案じ、彼の情報を得るためペテルブルクへ行くことを切望する。その手近な情報収集の手段の一つとして、自身のアバター<ヒロシゲさん>を操り「仮想空間ペテルブルク」へとログインするのだ。
文中の描写から、その仮想空間には多数の企業がスポンサーとして参入しており、アバターやアバターに着せる衣装などのアイテムも企業が自社の商標付きのものを提供していること、それ以外の普通のアイテムを買うには仮想通貨「ドル」を使用しなければならないことなどが分かる。
そこでおきみ(<ヒロシゲさん>)は、仮想のエカテリーナ女帝(これも他のユーザーのアバター)のとりまきとして仕え、「カーチャ」という女性アバターと仮想結婚している。つまりは「ネカマ」の逆バージョンだ。
尚、この「カーチャ」とは物語序盤で早々に離婚してしまうのだが、なぜかおきみはリアルな喪失感と悲しみを味わう。おきみは実際には女性で、「カーチャ」を操作するユーザーも実際は女性がどうか分からない。もしかしたらロシア人の中年男性かもしれないのに、感じる気持ちだけはリアルなもの。この辺りは、実際に仮想世界内で恋愛をした経験のある人なら共感を覚えるのではないだろうか。
やがて物語は、江戸とペテルブルク、仮想空間ペテルブルク、さらにシベリア横断ウルトラクイズの4つが絡み、徐々にどこからがリアルでどこからがヴァーチャルなのか分からなくなるほどもつれ合って最後の最後に択捉島の修道院であっと驚くドンデン返しを迎える。
それは読んでのお楽しみ……



