筆者はこれまで、セカンドライフに2万円弱、ntomoに1万5000円、ダレットワールドに5000円、ai sp@ceに5000円のリアルマネーをつぎ込んでいる。どれも全て「仮想アイテム」を購入するため。実体が無く、現実には全く役に立たないただの”0と1のかたまり”に過ぎないのだと頭では理解できているのだが、それでもサービスにログインするとなぜか欲しくなってしまう「仮想アイテム」という商品。
現在、仮想世界やオンラインゲームだけでなく、各種アバターサービスやFacebook、アメーバブログなど多くのオンラインサービスに「仮想アイテム」が取り入れられている。しかし日本ではまだこの「仮想アイテム」を好んで購入する消費者の購買動機について本格的な研究は為されていない。本書は、この「仮想アイテム」に代表されるようなデジタルコンテンツに対し、ユーザーがどんな魅力を感じているのかを学術的に掘り下げて研究した、おそらく日本初の「仮想アイテム研究書」ではないだろうか。
著者は成蹊大学経済学部准教授でヘビーなオンラインゲーマーとのことで、著者自身の体験とユーザーアンケートの調査結果を踏まえながら”形のないものを買う”人間の心理や購買パターン、さらにその先の収益構造までを解説・考察している。
興味深いのは、著者がユーザーの仮想アイテム購入の動機の一つに「他者の存在」と「格差」を挙げている点だ。
例えば、サービス内で自分のアバターを着せ替える場合、利用当初は仮想通貨も持っていなければ手に入れられるアイテムも少なく、どうしてもみすぼらしい格好になってしまう。しかしワールド内を見渡せば、有料アイテムやレアアイテムで着飾った他ユーザーがたくさん闊歩している。そんなベテランとみすぼらしい自分を比較すると途端に他ユーザーが羨ましく見え、もっと良い仮想アイテムを手に入れてお洒落なアバターにカスタムしたくなる…。こうした、言わば仮想世界内の「格差構造」がユーザーの物欲を刺激するというのだ。
さらに考察は仮想アイテムだけでなく仮想世界内のコミュニティにも及ぶ。不特定多数のユーザーが集うオンラインサービスにはコミュニティの形成が不可欠であることはこれまでにも散々語られてきたことだが、本書では、あるオンラインゲームのユーザーに対して行ったアンケート調査から、「ユーザーコミュニティにはゲームの満足度低下を抑える効果があるが、満足度の最高値を引き上げるものではない」という結果を導き出している。
ユーザーは、サービスを利用し始めた頃は、どんなコンテンツが用意されているのか?また今後どんなアップデートがあるのか?などの「新奇性」に満足度を感じるが、利用していくごとに、徐々にサービス内での人間関係や、コミュニティ内での自分の居場所に価値を見出すようになる。つまり「友達に会いに」ログインするようになるのだ。どんなに工夫をしても、サービスを提供する側が用意するコンテンツやアップデートの回数には限りがある。しかし「人間そのもの」の面白さは無限大だ。
著者は仮想世界のコミュニティの核となるユーザーを、面白いチャットができる「会話」、初心者ユーザーに様々なことを教えられる「指導」、他のゲームにも精通する情報通「他ゲーム情報」、他のゲームに友達を誘う「他ゲーム勧誘」、イベント運営ができる「オフ会」の5パターンに分類し、「コミュニティ活動の五角形モデル」を提案する。この5パターンの関係が、サービス内のコミュニティの大きな要素になるのだという。
仮想世界というとリアル社会から切り離された逃避の場だと思われがちだが、実際は、いくらバーチャルとはいえ人間同士が交わるリアル社会の延長線だったりする。むしろリアルの学歴や職業上の立場、経歴が隠される分、リアル以上に「その人そのものの個性」が問われる場ではないだろうか。
他者を意識することによって自己を認識し、仮想アイテムを購入し個性を演出して「バーチャル・アイデンティティ」を確立する。そしてコミュニティに関わり友達を作り、自分の居場所を探す。
本書は仮想アイテムや仮想経済だけでなくこうした「人間の普遍性」にも迫っている。結局、人間は仮想世界においても「社会的な生き物」であるということだろうか。








