箱田雅彦の編集後記

はてなブックマークへ追加 livedoor クリップへ追加 Yahoo! ブックマークへ追加 バーチャルワールドというメディアの特性(水口哲也氏/土屋敏男氏/遠藤諭氏の討論を聞いて)

3月8日、ジャパン・ソサエティーと朝日新聞社の主催によるジャパン・ソサエティー創立100周年記念シンポジウム「創造の作り手・創造の届け手」を聞きに行った。


ジャパン・ソサエティーは米国最大の日米交流団体。日米の相互理解のため、政治・経済・文化・教育など幅広い分野で活動している非営利団体。ジョン・D・ロックフェラー3世が理事長を務めていたこともある。


シンポジウムの前半はライオンキングの舞台演出などで著名な舞台演出家ジュリー・テイモア氏と宮本亜門氏の対談、後半はゲームクリエーターの水口哲也氏、日本テレビの土屋敏男氏、アスキー取締役の遠藤諭氏らによる討論が行われた。


ここでは後半の討論から感じられたことをレポートしたい。(前半はバーチャルワールドに関連しない内容であったため、別サイトで掲載している。詳細は後述)


前編でも触れたように、全体を通して感じられたメッセージは、「表現手法としてのメディアはそれぞれ特性が異なる」ということだった。登壇した各人はそれぞれの分野でメディアの特性を活かし、他のメディアにはない表現を突き詰めようとしている。そうした中でも、各登壇者が取り組んでいたメディアには、前後編ともそれぞれ共通のメディアがあった。前半ではそれが「演劇」であったが、後半のそれは期せず「バーチャルワールド」が浮かび上がってくることとなった。


■メディアの「違い」が意味するもの


アスキーの遠藤諭氏は討論を始めるにあたって「リアルとバーチャル」というキーワードを挙げた。ここでいうバーチャルは「仮想」というよりも、英語本来の意味合いに近く「実体はそこにはないが本質的に感じられるもの」と位置づけられている。そうしたうえで、そこにないものを「バーチャルに」伝えるメディアの特性が再度挙げられた。


「メディアによって、例えば音は電話で空間を越えたり、蓄音機で時間を越えたりすることができる。しかし、そうしたメリットの一方、そぎ落とされてしまう部分もある。例えば、電話は空間を越えることができるかわりに、音の質(解像度)は極端に落ちてしまう。」(遠藤氏)


テレビも同様だ。ハイビジョンなどでも「画素」に変換された時点でリアルとは比べようもない。どちらがいい、というよりも違うものになってしまう。前半に登壇したジュリー・テイモア氏も、自身の舞台を紹介したビデオに対して「うまく編集されていますが、舞台で見るのとは全く違います」と、メディアによる違いを強調していた。
ただし、この「違い」は優劣を指すものではないことに気をつけなければならない。


遠藤氏は冒頭の話の中映画を発明したルミエール兄弟の話に触れたが、兄弟は映画というメディアをエンターテイメントにはほとんど使わなかったという。兄弟は世界の風景を収めるだけであった。しかし、今日では映画の主な利用目的はエンターテイメントである。同様に手軽に音楽を楽しむというエンターテイメントに不可欠な録音技術の元祖である蓄音機は主に口述筆記のために発明された。(1878年にエジソンが挙げた蓄音機の用途10項目には音楽も含まれてはいたが、1番に挙げられた口述筆記に対し、音楽は4番目だった)


新しいメディアがその適した活用方法にたどり着くまでには一定の期間が必要なようだ。


■「何を表現するか」は変わらない


「メディアで表現することに憧れていた」というゲームクリエーターの水口哲也氏は90年代当初に「ゲーム」という新しいメディアフォーマットに出会い、ゲーム業界へ入っていった。水口氏にとって、「ゲーム」とは表現手段のひとつであるという。同氏はその後、音楽とゲームの新しい関わりを表現した「スペースチャンネル5」や「Rez」「ルミネス」といったゲームを生み出していくこととなる。音楽表現以外にも2005年に発売された「N3(Ninety Nine Nights)」では、ゲーム途中でプレイヤーの視点を、それまで「敵」だった側に移すことによって、ゲーム中で起こっている「戦い」の意味を多面的に表現し、ゲームというメディアを利用することで可能な表現を模索している。


「技術が変わっても、根底にいる人(の考え)は変わっていない。何を表現するかということが大事だ。」(水口氏)


同氏は自身がプロデュースする音楽プロジェクト「元気ロケッツ」を早くからYouTubeでプロモーションしたり、セカンドライフ内で「スキージャンプ・ペア」をプロデュースするなど、新たなメディア活用に積極的に取り組んでいる。


■そのメディアだから表現できること


日本テレビの土屋敏男氏は「電波少年」のT部長としても有名である。同氏はコンテンツの作り手として、コンテンツを作る動機の源は「気持ちを動かしたい」ということにあるのだと語った。その上で、テレビ業界での新たなテクノロジーを活用した動きについて、「例えばテレビ番組をYouTubeにあげていつでも見られるというようなことは『便利』かもしれないが、それは『新しい表現』ではない」と指摘。「テレビでできることをやってもしょうがない」と語った。そして、インターネットが発達することによるメリットとは「今までのシステムの中では発見されなかったクリエイティブの才能を発見し育てることができるようになった」(同氏)ことだと話す。


「今、『技術』や『ビジネス』という観点はあるが、もうひとつ、便利とかお金とかで計れない観点がある。それは『表現』であり、突き詰めれば『個の狂気』、もっと平たくいえば『面白いんじゃな~い?』という観点だ」(同氏)


そうした『面白いんじゃな~い?』を突き詰める中で土屋氏はセカンドライフ内で収録した地上波テレビ番組「デジタルの根性」に取り組んだ。そこで同氏はテレビと比較して「表情」などの情報量が格段に違うことに気づく。「表情の表現力が100分の1くらいになってしまう。でも代わりにできることがあるとも感じている。できることにフォーカスしてクリエイティビティを発揮することで、機能は膨らんでいく。この感覚は実際にやってみなければ実感できなかった。」(同氏)


■バーチャルワールドができること


ここではシンポジウムのごく一部の議論を紹介した。3月末にはアサヒ・ドット・コムでもレポートされるとのことなので、詳細はそちらを見ていただきたい。


最近はバーチャルワールドをメディアのひとつとして、どう活用することができるかという議論がされるようになったが、今回のシンポジウムでの議論もそれに通じている。繰り返しになるが、「表現手法としてのメディアはそれぞれ特性が異なる」ことを念頭に、技術に振り回されるのではなく「『面白いんじゃな~い』という観点」(土屋氏)を持ちつつ、「何を表現するか」(水口氏)を突き詰めることが大切なのかもしれない。


私自身、この数値化しにくい「感覚」をこれまでのネットメディアよりも豊かに伝えられるメディアとしてバーチャルワールドの特性を語ることができるのでないかと考えていたこともあり、このシンポジウムからは多くの気づきを得ることができた。


前半の舞台演出家ジュリー・テイモア氏と宮本亜門氏の対談については以下に記した。
シンポジウム「創造の作り手・創造の届け手」(前編)ジュリー・テイモア氏/宮本亜門氏


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